論文「〈モンテネグロ語〉の境界」が出ました

 北海道大学から刊行されている『境界研究』誌の第4号に,論文「〈モンテネグロ語〉の創出――ユーゴスラヴィア解体以降の言語イデオロギーにおける『言語』の再編(2007-2011)」が掲載されました.同論文はPDF化され,以下のホームページからダウンロードできます.

 関連刊行物:成果刊行物(雑誌)|北海道大学グローバルCOEプログラム

 正確な書誌情報は,
・中澤拓哉「〈モンテネグロ語〉の創出――ユーゴスラヴィア解体以降の言語イデオロギーにおける『言語』の再編(2007-2011)」『境界研究』第4号,2013年,15-30頁.
です.本稿は匿名の査読者による査読を経ています.査読者の方々のおかげで記述の曖昧な箇所や誤訳が取り除かれ,より良い論文になったと思います.この場で感謝を申し上げます.もちろん,論文内における誤りについての最終的な責任はわたしに帰します.

 本誌には,わたしの駒場での先輩である森下嘉之氏と辻河典子氏の論文も掲載されています.是非とも併せてお読みください.森下論文「『地域』はいかに構築されうるか」は,従来チェシン/チェシーン問題として知られてきたチェコポーランド国境地帯をめぐる領土問題を,第二次世界大戦以降にそこから追放されたドイツ人たちの言説の側から捉え直してみようというものです.ドイツ人たちは「ズデーテンラント」に倣い,その地域を「ベスキーデンラント」として名付け,その一体性と多様性を訴えました.辻河論文「1920年代初頭のハンガリー系亡命者と中央ヨーロッパ政治情勢」は,ハンガリーにおける二度の革命後,ヴィーンに亡命したハンガリー人たちが創刊した『ウィーン・ハンガリー新聞』というハンガリー語紙をめぐる権力闘争を,中央ヨーロッパの政治情勢という大きな枠組みの中に位置づけようとするものです.旧ハンガリー王国領を中心としたハンガリー語言論空間の広がりと,継承諸国におけるそれへの反応が,ハンガリー語のみならずスロヴァキア語史料も用いて論じられます.この二論文と並べられると正直肩身が狭いのですが,いつかお二方と並べられても恥ずかしくないような論文を書けるよう精進したいと思います.

 ちなみに,本稿のタイトルは,言うまでもなく小熊英二氏の大著『〈日本人〉の境界』(新曜社,1998年)へのリスペクトです.同書が長いスパンで〈日本人〉の境界の移動を追ったのに対して,わたしはほんのわずかな言説のみを追ったに過ぎませんが,同書で示されたような問題意識をユーゴスラヴィアにおいて検討するための,小さな足がかりになれば幸いです.

速水螺旋人さんから言及していただきました

 以前書いたサブカルチャーにおけるユーゴスラヴィア像についての論文で,速水螺旋人さんの作品『靴ずれ戦線』に少しだけ言及したのですが,なんと,速水さんご本人から言及していただきました! 感激です.

あらあら、光栄です。http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/54872/1/CLC_30_011.pdf

https://twitter.com/RASENJIN/status/394836263401816065

MASTERキートン』『虐殺器官』『さよなら妖精』などと靴ずれを並べていただけるのは身に余る嬉しさ。

https://twitter.com/RASENJIN/status/394840454543310848

ユーゴスラヴィア現代史専攻で、モンテネグロの民族問題を主に研究してはるだなんて応援せざるを得ない。

https://twitter.com/RASENJIN/status/394845530208997376

 応援していただきありがとうございます! 『靴ずれ戦線』と『大砲とスタンプ』を楽しく読ませていただきました.溢れるロシアへの愛が素晴らしいと思います(小学生並みの感想で申し訳ありません……).

バルカンを舞台にした話も描きたい。やりたいことはいっぱい。

https://twitter.com/RASENJIN/status/394846924030742530

 服を脱いだ上で正座して待たせていただきます.

 そして「代替可能な紛争地」について,以下のようなご意見もいただきました.

ソマリアも「代替可能な紛争地」としてよく利用されてるよなー、なぞと考える。いや大変面白かった。

https://twitter.com/somalia_watcher/status/394851181702303744

 日本におけるアフリカ表象については,確か学術書が刊行されていたように思いますが,未読です.帰国したら,そういう他の地域における表象にも着目してみたいと思います.

代替可能な紛争地、おそらく冷戦の終結と前後して、中南米の比率が下がって代わりに旧東側諸国(中央アジアコーカサス、旧ユーゴ)あたりが台頭してきたのであろうと思うんだが、実際どうなんでしょ?

https://twitter.com/admiral_wakky/status/394857957973704704

 残念ながら本論文ではそのような通時的・悉皆的な検討はしておりませんし,それをするだけの力量は今のわたしにはありませんが,非常に重要なご指摘だと思います.冷戦終結以前のサブカルチャー作品には不勉強なものであまり触れたことがないのですが,東側のイメージが「敵手」から「紛争地」に変わったということはあるのかもしれません(たとえば,『エロイカより愛を込めて』という漫画では,冷戦の終結を境に,KGBとの諜報合戦というテーマが失われ,かわりにテロリストとの対峙やソ連崩壊後の混乱の中で流出した兵器の管理などといったストーリーが目立つようになります).

「靴ずれ」より宅配コンバット学園のほうに驚いた。 #TKG

https://twitter.com/somalia_watcher/status/394849066242154497

 ユーゴスラヴィアを取り扱ったということで耳目を集めた作品である以上,取り上げないわけにはいかなかったのです…….

論文「『モンテネグロ語』の創出」が出ました

 三元社から発行されている『ことばと社会』誌の第15号に,論文「『モンテネグロ語』の創出――ユーゴスラヴィア解体以降の言語政策と言語状況(1992-2011)」が掲載されました.雑誌の詳しい目次は,三元社のホームページを参照してください.

 ことばと社会 15号 特集:ネット時代のことばと社会

 正確な書誌情報は,

・中澤拓哉「『モンテネグロ語』の創出――ユーゴスラヴィア解体以降の言語政策と言語状況(1992-2011)」『ことばと社会』第15号,2013年,180-206頁

です.本稿は匿名の査読者による査読を経ています.査読者の方々のおかげで理論的問題がクリアになり,より読みやすいものになったのではないかと思います.この場で感謝を申し上げます.

 三元社の『ことばと社会』誌は,積極的に沖縄語やアイヌ語の文章を載せ,別冊ではケルト諸語による論文要旨をつけるなど,少数言語の復興に多大な貢献をしている雑誌です(わたしの論文は,その「少数言語の言語権」という理念がどのように旧ユーゴスラヴィア諸国でナショナリストたちに利用されているか,という少しひねくれた問題を扱っているのですが).ですので,今後とも同誌が継続して発刊されるためにも,是非とも購入していただきたいと思います.

 ちなみに,本論文のタイトルは,齋藤厚氏の論文「『ボスニア語』の形成」(『スラヴ研究』第48号,2001年)へのリスペクトだったりします.氏の論文の水準に達することは未だにできそうにありませんが,本稿が旧ユーゴスラヴィア地域における言語問題を知るための,足がかりになれば幸いです.